BluetoothはiPhoneやAndroidのスマートフォンなど意外にもカーナビ、キーボードやマウスなど多岐に渡り使用されていますが、バージョンについてはあまり意識せず使用してきました。
そこで、今回の記事では各バージョンごとの違いや進化についても解説していきます。
1. Bluetoothの概要
Bluetoothとは何か
Bluetoothは、短距離無線通信技術の世界標準規格でNFCよりも距離の離れた通信ができます。モバイルデバイス間でデータを無線でやり取りすることを可能にし、ケーブルを接続しなくても接続できる通信技術です。主に2.4GHz帯の電波を使用し、低消費電力でありながら安定した接続を実現しています。
Bluetoothは通信技術のため、電気をワイヤレスで供給し端末を充電することはできません。
ワイヤレス充電は別の規格の「Qi」となります。
名前の由来:デンマークの王、ハーラル・ブロートゥースにちなむ
1994年にスウェーデンのEricsson社が新しい近距離無線通信規格の開発を開始し、1998年にはBluetooth SIGが設立されました。BluetoothのロゴはHarald Blåtandの頭文字”H.B”を図案化したものであり、初期のバージョンから現在までの進化に至るまで、多くの改善が行われてきました。
https://www.tjsys.co.jp/focuson/clme-bluetooth/index_j.htm
Bluetoothという名称は、10世紀のデンマーク王、ハーラル・ブロートゥース(Harald Bluetooth)に由来します。彼はデンマークとノルウェーを統一した王として知られ、異なる勢力を「結びつけた」という意味が、デバイス同士を「接続する」という技術の本質に重ね合わされました。
Bluetooth SIGの設立と規格の標準化
1998年に設立されたBluetooth Special Interest Group(SIG)は、Bluetoothの規格開発と普及を推進する組織です。エリクソン、IBM、インテル、ノキア、東芝の5社で始まったSIGは、現在では数万社のメンバーを抱える巨大組織となり、技術の標準化と品質保証を行っています。
2. バージョン進化の軌跡
Bluetooth 1.0から5.4まで
Bluetoothは1999年のバージョン1.0のリリースから、通信速度、省電力性、セキュリティなど、多岐にわたる進化を遂げてきました。
1999年:Bluetooth 1.0
- 最大通信速度721kbps
- 通信距離約10メートル
- 初期バージョンで接続の安定性に課題
2004年:Bluetooth 2.0
- Enhanced Data Rate(EDR)の導入で最大3Mbps
- 消費電力が従来比約半分に
- 音声品質の向上でヘッドセット需要が拡大
2009年:Bluetooth 3.0
- High Speed(HS)で理論値最大24Mbps
- 大容量データ転送が可能に
- 802.11プロトコルの採用で高速通信時の電力消費が課題
2010年:Bluetooth 4.0
- Low Energy(LE)技術の導入が革新的転換点
- コイン電池一つで数年間の動作が可能に
- 医療機器やウェアラブルデバイスの普及を促進
- Classic(従来型)とLEの2種類の規格が共存
2016年:Bluetooth 5.0
- LEの通信距離が4倍(最大400m*条件やClassによる)に
- データ転送速度が2倍(最大2Mbps)に
- ブロードキャスト容量8倍で豊富な情報発信が可能
- メッシュネットワークへの対応で IoT 展開が加速
2019年:Bluetooth 5.1
- センチメートル単位の方向検知機能(機器による)を追加
- 室内ナビゲーションなどの新用途を開拓
- 接続時間の短縮による更なる省電力化
2020年:Bluetooth 5.2
- LE Audio対応でマルチストリーム配信が可能に
- アイソクロナスチャネル導入で遅延を削減
- 電力効率が向上し、小型デバイスの長時間駆動を実現
2021年:Bluetooth 5.3
- チャネル分類の最適化で混雑した無線環境でも安定接続
- 暗号化キーの定期的な更新でセキュリティを強化
- 接続パラメータの動的調整で更なる低消費電力化
2023年:Bluetooth 5.4
- Periodic Advertising with Responses(PAwR)の導入
- 双方向通信の効率化でバッテリー寿命を延長
- 位置測定精度の向上でアセットトラッキングが進化
各バージョンの主な改善点
バージョンアップの歴史を通じて、Bluetoothは常に「高速化」「省電力化」「安定性向上」の3つの軸で進化してきました。
特筆すべきは、Bluetooth 4.0でのLE技術の導入です。従来のClassic Bluetoothと比較して、待機時の消費電力を最大1/100に削減することに成功しました。これにより、コイン電池一つで数年間動作するような超小型IoTデバイスの開発が可能となり、ウェアラブル技術の爆発的な普及につながりました。
また、5.0以降のバージョンでは、省電力性を維持しながら通信距離と速度の大幅な向上を実現しています。例えば、Bluetooth 5.0では屋外での通信距離が最大400メートルに達し、建物内でも数十メートル離れた機器との安定した通信が可能になりました。
消費電力の面では、各バージョンで様々な工夫が施されています:
- スリープモードの最適化
- パケットサイズの効率化
- 接続パラメータの動的調整
- 不要な再送信の削減
これらの改善により、現在のBluetooth LEデバイスの多くは、使用頻度にもよりますが、数週間から数ヶ月のバッテリー持続時間を実現しています。
セキュリティ面でも継続的な強化が行われ、5.3では暗号化キーの定期的な更新機能が追加され、長期的な安全性が向上しました。
3. 革新的な機能の追加
ペアリングの簡略化
初期のBluetoothでは、デバイスの接続(ペアリング)が複雑で時間がかかりました。しかし、近年のバージョンでは、NFCとの連携やGoogle Fast Pairなどの技術により、ペアリングプロセスが大幅に簡略化されています。
LE Audio
Bluetooth 5.2で導入されたLE Audioは、低消費電力でありながら高音質な音声伝送を実現します。新しい音声コーデック「LC3」の採用により、従来比で約50%の省電力化を達成しつつ、音質も向上させました。
Auracast
2022年に発表されたAuracastは、1対多の音声ブロードキャストを可能にする革新的な機能です。公共施設でのアナウンスや、映画館での音声配信など、新しいユースケースを創出しています。
LE AudioとAuracastについては下記の記事で詳しく解説しています!
4. IoT時代におけるBluetoothの役割
スマート機器との連携
スマートホームデバイスの多くがBluetoothを採用し(WiFi対応機器もあります)、スマートフォンとの連携を実現しています。照明、温度調節、セキュリティシステムなど、様々な機器をシームレスにコントロールできます。
ウェアラブルデバイスでの活用
スマートウォッチやフィットネストラッカーなど、ウェアラブルデバイスの多くがBluetooth LEを使用しています。低消費電力で常時接続が可能なため、長時間のバッテリー持続を実現しています。
産業用途での展開
工場の生産ライン管理やロジスティクス、農業でのセンサーネットワークなど、産業分野でもBluetoothの活用が進んでいます。特に、Bluetooth Meshネットワークの導入により、大規模なIoTシステムの構築が可能になりました。
カメラでの利用
カメラ業界においても、Bluetoothは多くの最新デバイスで活用されています。特に、デジタルカメラ(一眼レフやミラーレス)では、Bluetooth経由でスマートフォンやタブレットと簡単に接続し、写真の自動転送やリモート撮影が可能です。たとえば、撮影した写真をその場でスマートフォンに送信してソーシャルメディアに即時アップロードできる機能や、カメラのリモートシャッター操作が可能になるため、撮影の自由度が大幅に向上しています。
一部のカメラでは、Bluetoothを使ってGPS情報をスマートフォンからカメラに同期する機能も搭載しており、撮影場所の記録が自動でできるようになっています。
5. Bluetoothの未来展望
6.0以降の新技術
Bluetooth 6.0は現在開発中ですが、さらなる高速化と省電力化が期待されています。また、AI技術との統合により、よりスマートな接続管理が可能になるかもしれません。
他の無線通信規格との共存
Wi-Fi 6EやiPhoneなどで使用されているUWB(Ultra-Wideband)など、他の無線通信技術との効率的な共存・連携が進められています。それぞれの技術の長所を活かしながら、シームレスな通信環境の構築を目指しています。
将来的な活用
拡張現実(AR)やバーチャルリアリティ(VR)デバイスでの活用、スマートグラスとの連携など、新しい技術分野でのBluetoothの役割が期待されています。
6. 私たちの生活を変えたBluetooth
日常生活での活用シーン
ワイヤレスイヤホンでの音楽視聴、スマートスピーカーの操作、スマートフォンでの写真共有など、Bluetoothは私たちの日常生活に深く浸透しています。
医療分野での応用
医療機器でもBluetoothが活用されています。Bluetoothで接続するスマートウォッチのApple Watchなどでは血糖値モニターや心拍計、温度の測定ができるなど、患者のデータをリアルタイムで収集や分析することができるようになっています。
自動車産業での革新
車に高性能なコンピューターが搭載される中でハンズフリー通話機能やキーレスエントリー、タイヤ空気圧モニタリングなど、自動車にもBluetoothが多く採用されています。7. 使用されている機器
スピーカー
Bluetoothスピーカーは、高音質と携帯性を兼ね備えた人気製品です。最新のモデルでは、複数のスピーカーを連携させてステレオサウンドを楽しむことも可能です。
イヤホン
完全ワイヤレスイヤホン(TWS)の普及により、Bluetoothイヤホンの市場は急速に拡大しています。
その中で、Anker Soundcore Liberty 4 Proは2024年に新発売した商品でBluetooth 5.3とANC(ウルトラノイズキャンセリング3.5)に加えて、「LDAC」や「マルチモード3Dオーディオ」にも対応した最新のイヤホンです!
8.Bluetoothのクラスと接続範囲
Class 1デバイス:最大100メートルの通信範囲を持つが、日本の電波法では最大出力が20mW(13dBm)に制限されています。これは国際標準の100mW(20dBm)よりも低く設定されており、他の無線機器との干渉を避けるための措置です。
Class 2デバイス:一般的に10メートルまでの通信範囲を持ち、送信出力は2.5mW(4dBm)です。
Class 3デバイス:最大1メートルの通信範囲を持ち、送信出力は1mW(0dBm)です。
Bluetoothには、通信できる距離によって3つのクラスがあります。最も通信範囲が広いのがClass 1で、約100メートルまで通信できます。次にClass 2があり、こちらは約10メートルの通信が可能です。最後にClass 3は、約1メートルと最も短い通信範囲となっています。
日本では主にClass 1とClass 2のデバイスが使われています。例えば、パソコンやプリンターなどでよく使われるのがClass 1、スマートフォンやワイヤレスイヤホンなどによく使われるのがClass 2です。一方、Class 3については、日本の電波法によって最大出力が20mWに制限されているため、あまり一般的ではありません。
このように、Bluetoothのクラスは通信距離によって使い分けられ、用途に応じて適切なクラスが選択されています。
余談: BluetoothとSONYのLDAC
LDACの特徴
最大992kbpsの高ビットレート転送に対応(SBC最大328kbps)
96kHz/24bitの高解像度音源転送が可能(SBCは最大48kHz/16bit)
高効率なデータ圧縮と最適化により、Bluetooth規格内で高音質化を実現
LDACはBluetooth A2DPプロファイルの規格に準拠しつつ、Sony独自の技術を採用している
余談としてSONY製品に搭載されているLDACについて説明します。
LDACは元々SONYのウォークマンやXperiaなどに搭載されている高音質ワイヤレスオーディオコーデックの技術で、従来のBluetoothオーディオコーデックよりも高ビットレート・高サンプリングレート・高解像度の音声データ転送が可能です。
以前までは、SONYのXperiaやウォークマンとSONY製のワイヤレスイヤホンやスピーカーの組み合わせでしか使用できませんでしたが、SONYがAOSP(Android Open Source Project)に寄贈したことでAndroid 8.0からはどのメーカーもソフトウェアで実装できるようになっています。
因みにiPhoneのBluetoothでの対応コーデックはAACとSBCのみのため、LDACの使用をする際は別途下記のようなアンプが必要になります。
終わりに
今回の記事ではBluetoothのバージョンや歴史について解説させていただきました。
今後Bluetoothの通信スループット、通信距離、マルチリンク、位置検出精度、セキュリティ、低消費電力、オーディオなどの様々なアップデートにも期待です!
コメント